Association des Laureats du Futsuken Ikkyu

合格体験記

K.S.さん (2015年8月寄稿)

合格体験記

合格年度: 2007年
職業: 会社員 (当時は学生)
年齢: 30代 (当時は20代)
フランス語学習歴: 14年 (当時は6年くらい)
フランス語圏滞在年数: 1年5ヶ月
おすすめの教材: 装丁が美しい古書
効果的だった学習方法: 恋愛小説渉猟、辞書丸かじり

 なぜ、いつフランス語を学び始めたのか、鮮明な記憶はありません。当時、たぶん高校生。周囲は受験勉強で英語に首っ丈の年頃です。ふと思い出すのが、体育祭のワンシーン。私が通っていた学校は、必ずしも全員が競技に参加するわけではなく、自由謳歌型の生徒も若干名おりました。盛り上がる応援席から姿をくらました私は、グラウンドを望む傾斜の利いた芝生に腰を下ろし、根を張り、サガン、ラディゲ、スタンダール、アルベール・サマン、ジョルジュ・ロダンバックなど、まだほとんど読めないフランス語の小説を開くのでした。

 幼い頃からヨーロッパに漠然と憧れていました。城、庭園、ロマンス、そのすべてが海の向こうに広がっている。もちろん日本にも美しい城はありますし、プラモデルで築城した経験もありますが、もっと実用性に乏しいデザイン重視の古城がそびえる夢世界を思い描いていました。

 契機になったのは、偶然テレビで聴いたカヒミ・カリィのOne Thousand 20th Century Chairsです。当時パリ在住のウィスパーボイスでロックチューンという、一介の日本人中学生には意味不明な現象でしたが、一気に興味がわきました。珍しい映画や海外のミュージシャンを知るきっかけにもなり、ジェーン・バーキンのライブにも行きました。ルイ・フィリップは、今でも大ファンです。アルバムIVORY TOWERのライナーノーツがきっかけで、アルベール・コーエン著Belle du Seigneurに巡り合えました。フランシス・プーランクに捧げられたアルバムNUSCH収録のLes Chemins de l’amourはとにかく美しいので、ぜひ聴いてほしいです。

 留学先は、ミストラルが吹きすさぶ南仏のアヴィニョンを選びました。迷路のような奥の細道を練り歩き、劇場や映画館に足繁く通いました。晴れた日は、ロシェ・デ・ドン公園を散歩して、ローヌ川やその先に延々と続く山の連なりを見ながら途方に暮れた気分でサンドイッチを食べました。

 ある雨の日、ちょっとした出会いがあって、屈託のない月日が流れ、悲しい別れに至りました。そんなとき、世間一般の若人はどうするのか知りませんが、私は文学にのめり込みました。もちろん普段からフランス語の勉強は欠かしていませんでしたが、それまで読めなかったレベルの小説まで破竹の勢いで理解が進みました。嘘ではありません。苦悶する恋人たちの一挙手一投足、繊細微妙な心理描写、ページを手繰り、テクストを追う目の動きは加速します。「うんうん」「そうだよねぇ」という時空を越えた共感が、慎ましい日本人学生のフランス語力を飛躍的に向上させた点は特筆に値するでしょう。アレクサンドル・デュマ・フィス氏には、この場を借りて厚く御礼申し上げます。

 ややあって、トゥールに引っ越し、バルザックやロンサールの石像に御参りしてから、ユッセ、ランジェ、アゼルリドーなどの城を巡りました。シャンボールでアイスクリームをぼんやり食べていた記憶が妙に鮮明です。この町でも失恋し、シャルル・アズナヴールのEmmenez-moiを歌いながらロワール川沿いを徘徊したことで発音もだいぶよくなりました。アズナヴールで思い出しましたが、ノルマンディーを旅行していたとき、カンの町に宿を取って、オンフルール行きのバスを待つ間、近くのレストランでウィーン風カツレツを食べていたら、Et pourtantが流れていたんですね。ああ、なんだかフランス映画の中にいるみたいで、妙に泣けてきました。

 帰国後、ますます勢いづいて恋愛小説を読みあさり、DALF C1を経て、仏検1級は2回落ちたものの学部3年で合格して賞をいただき、大学院でアルベール・コーエンの作品について、フランス語でA4用紙100枚くらいの修士論文を書き上げました。ここで脳味噌が飽和状態に達し、新たな失恋も味わい混乱したので、新天地を求めて会社員になりましたが、うだつの上がらない日々を送っており、小説まがいの文字列を夜な夜な書き散らしては、朝方、頬を赤らめつつ消去する負のスパイラルに陥っています。

 外国語筆記試験免除の恩恵に浴して、通訳案内士の資格を取りました。今も費えぬヨーロッパへの憧れを胸に秘めつつ、日本文化への興味・関心も深めています。野心的にドイツ語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語の学習も始めました。主要なワイン産出国の言語をコンプリートしつつあります。イタリア語で書かれたフランス文学史や、ドイツ語の日本文化辞典、フロイト、ツヴァイク、シュニッツラーなど、既にいろいろ買い込んでしまったので、もう後には引き返せません。

 最後に実用的なコメントとして、France CultureのPodcastは、たくさん種類があってオススメです。あと、ロンブ・カトー著『わたしの外国語学習法』は、モチベーション維持につながります。それから、同じ小説を複数言語で読み比べるのも楽しいですよ。ロレンス・ダレル著『アレクサンドリア四重奏』を英日仏の順番で、『アヴィニョン五重奏』を英日+仏(3巻と5巻しか手に入らなかった・・)のまぜこぜで読んでみました。本棚が面白いことになってきて壮観です。

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